買いは家まで、売りは命まで。 |
これは投資界隈の格言の1つですが、ここで言う「売り」は、株で言うところの「空売り」で、FXで言うところの「売りポジション(ショートポジション)」の事を意味しています。
よって、この格言は「買い(ロング)よりも売り(空売り・ショート)の方がリスクが高く危険」という意味になるのですが、これはある意味では正しいものの、必ずしもそうとは言えない格言でもあります。
では、この「買いは家まで売りは命まで」という格言は、どのような「捉え方」および「前提」において、成り立つ格言なのか。
また、どのような前提の上では「そうとは言えない」のか。
その辺りの「売りのリスク」を考察しながら言及していきたいと思います。
買いは家まで売りは命まで。の意味と「売り」のリスクについて。
まず、分かり切っている事かと思いますが、この格言の「家」や「命」は例えであって、言いたい事は「どっちも大きなリスクがあるよ」「でも売りの方はもっとリスクがあるよ」ということです。
ただ、もう少し突き詰めて言うと、それぞれの意味合いは、
家:手元にあるお金全て(=全財産) 命:それ以上(=更に借金を背負うレベル) |
という事であり「買い」で失うものはせいぜい『手元にあるお金全てまで』ですが「売り」で失うものは「それ以上」なので『借金を背負って死にたくなる思いをするかもよ』という事を言っています。
その上で、この格言をそのまま素直に「そうだよね」と解釈するのは、株の現物取引、および株で空売りを行っているような人だと思います。
ただ、為替やビットコインなどのFXだけを経験しているような、いわゆる「トレーダー」と呼ばれる人達は「え?どういう事?」と思ってしまう可能性が高いです。
現にビットコインや為替相場を対象とする「FX」でポジションを建てた場合、それが「買い」のポジションでも「売り」のポジションでも、レートの変動に伴う損失やリスクは全く同じだからです。
また、実際に含み損を抱えていった場合の「追証」「強制ロスカット」といった状況、条件も、ポジションの方向でそれらが変わる事はありません。
仮に証拠金が底を付いた時点で強制ロスカットになるような取引所なら、その時点で資金の全額を失う状況となるため、その「リスク」と「損失」は、やはり「何も変わらない」という事になるわけです。
よって、そこだけを考えると「買いポジションも売りポジションも、リスクは同じじゃね?」という事になるため「買いは家まで売りは命まで」という格言がそもそも成り立たない事になります。
では、何故、FXでは『買いは家まで売りは命まで』が成り立たないのかと言うと、これはFXの取引では、ほとんどのトレーダーが「レバレッジ」を使っている事に起因しています。
端的に言えば、FXの場合はレートが上がろうと下がろうと、証拠金が底を付いた時点で強制ロスカットとなるため、どちらの場合でも資金の全額を失い、言わば「家まで」の状況で手仕舞いとなるわけです。
▼ レバレッジを用いたポジションと強制ロスカットの関係レバレッジは資金より多くの金額に相当するポジションを建てられる仕組みのため、レバレッジを用いてポジションを建てた場合の「損益」は、以下のような計算式で算出できる形になります。
よって、仮に10%の変動率(100万円のビットコインが90万円に下落、110万円に上昇など)がポジションとマイナス方向に生じた際に10倍のレバレッジを用いるポジションを建てていた場合の損益は。
このようになります。 |
ただ、強制ロスカットの仕組みや条件によっては「証拠金がマイナスになる(負債扱いになる)」という取引会社もあるため、この場合は「買い」でも「売り」でも『命まで』という事になります。
とは言え、どちらにしても、そこに生じている「リスク」が同じである事に変わりはないため、これが『買いは家まで売りは命まで』がFXの方では成り立たない理由にあたるわけです。
「レバレッジ」を使えば「買い」でも「売り」でもリスクは同じ。
対して、そもそもの「相場」の原点でもある「株(株式投資)」は、基本的には「買うもの」であって、買った株を売る事はあっても「売る」という行為が主体になっているわけではありません。
そこで「空売り」という仕組みを使う事で実質的に「売り」からでも入る事が出来るようになっているわけです。
ただ、この「空売り」の仕組みも「経緯」と「結果」だけに着目するならFX(証拠金取引)で「売りポジション」を建てた場合と同じ考え方でとくに問題ありません。 |
ですが、この株の「現物買い」と「空売り」には、とくに「レバレッジ」という仕組みは出てきませんし、そのような仕組みを前提としていないのが、そもそもの「株取引」です。
よって『買いは家まで売りは命まで』という格言は、そもそもレバレッジという概念を含めていないもので
「株の現物買い」「株の空売り」
この2つの投資行為を対比した上での格言なのが実情です。
その上で、株の「現物買い」は、実際に買った株の株価が上がれば、上がった分だけ利益(含み益)が出ていきますが、買った株が下がれば、買った後に下がったレート分は損失(含み損)になります。
この場合の最悪ケースは、その株がゴミ屑同然となり、極論、1円の価値もなくなったなら、その時点で確定する損失は、その株を買うために投資したお金の「全額」です。
その投資したお金の全額を失う状況が「最悪ケース」という事です。
対して「空売り」の場合は、空売りした銘柄の株価が下がっていけば、下がった分は利益になりますが、逆に株価が上がっていけば、上がった分だけ損失が出ます。
そして、この「株価が上がる」という点に関しては、実質的な「天井」が存在しないため、いくらでも上がっていく可能性があるわけです。
つまり、株価が下がる分には「0円」という「底」がありますが、株価が上がる分には天井が存在しないため「それに伴う損失も『空売り』を続けている限り青天井」という事になります。
これが『買いは家まで売りは命まで』という格言の所以という事です。
『買いは家まで売りは命まで』の所以は「現物買い」と「空売り」の対比。
よって、この「所以」を前提に為替やビットコインのFX(証拠金取引)を捉える場合、証拠金が底を付くような含み損(損失)が伴った時点において
・ポジションが強制的にロスカットとなり、証拠金残高0円の状況となる取引会社 ・強制的なロスカットにならずに証拠金のマイナス分が負債となる取引会社 |
このどちらの仕組みになっているかによって、FXにおいては「買い」でも「売り」でも同じように「家」か「命」まで、という事になります。
もちろん、FXを行う以上は「証拠金の全てを失うようなトレード」や「証拠金がマイナスになってしまうようなトレード」を行う事自体を徹底して避ける必要があります。
とは言え、それでも、そのような最悪ケースにおいて、自分が利用している取引会社が「家まで(資金残高0円まで)」なのか。
もしくは「命まで(負債となるまで)」なのかは、一応、把握しておくに越した事はないということです。
▼ 同じ理屈で「ビットコイン運用」を考えてみる。ただ、この『買いは家まで売りは命まで』という格言が生まれた頃には、存在さえしていなかった「ビットコイン」によって、この格言は、更に違った視点で成り立たない側面が生まれています。 「ビットコインを原資(資金)として証拠金取引(FX)を行える取引所」 が存在するため、この場合はビットコインを証拠金にポジションを建てる形になります。
という事になるわけです。 もし、ご興味があれば、こちらも併せて読んでみてください。 |
以上、本講義では『買いは家まで売りは命まで』という格言について言及させて頂きました。
今回のテーマに関連する講義も他に幾つかございますので、併せて参考にして頂ければと思います。
>レバレッジの真実と、その「本当のリスク」について。
>為替FXとビットコインFXの違い。リスクと値動きの比較。
本講義の内容が、少しでも今後のあなたの資産運用のお力添えになれば幸いです。
最後までお付き合い頂き、ありがとうございました。