ダウ理論は「チャールズ・ダウ」という米国の証券アナリストが、もともとは株式相場を対象に提唱した理論で、現在は「為替」「仮想通貨」の相場を対象とする形でも、多くのトレーダーに実用されています。
この記事では、そんな「ダウ理論」における『トレンド転換の際に伴うシグナル(サイン)』を、実際の相場に見られるトレンド転換のチャート状況などから考察していきたいと思います。
ダウ理論の「6つの基本原則」については以下の記事でそれぞれの理論を解説していますので、こちらも併せて参考にしてください。
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ダウ理論のシグナル。トレンド転換サインの有無について
ダウ理論で提唱されている「トレンド」についての理論は大きく分けて以下の3つに分類できます。
・トレンドの全体像
・トレンドの段階レベル
・トレンドの転換シグナル
ここでは、この3つの内の『トレンドの終わりには転換のシグナル(サイン)が伴う』という理論について考察していきます。
-トレンドの終わりには転換のシグナル(サイン)が伴う。 |
ダウ理論において、おそらくシンプルで最も分かり易い理論であり、また、ダウ理論の中で、最も多くのトレーダーに「実用」されている理論は、おそらく、この理論ではないかと思います。
相場におけるトレンドは、転換のシグナルが出るまでは継続し、そして、そのシグナルと共に転換(反転)するという考え方から、
・この理論に基づいてポジションを持ち続ける(シグナルが出るまでトレンドは続く) ・この理論に基づいてポジションを解消する(シグナルが出た事でトレンドが終わる) ・この理論に基づいてポジションを建てる(シグナルと共にトレンドが反転する) |
このいずれか、または、全てを前提とするトレードを行っているトレーダーも少なくありません。
また「情報商材」などで提唱されているノウハウなども、それがダウ理論に沿ったものかどうかの実情は別として、トレンドの継続や転換の判断に何らかのシグナルを基準としているものが多く見られます。
要するに、相場におけるトレンドの「終わり」や「転換」には、それを捉える事ができる何かがチャート上に表れる(傾向にある)と考えられているわけです。
その上で、トレンドの「終わり(転換)」と「継続」の判断は『価格更新の有無』が基本原則であり、
・高値更新 → 上昇トレンドの継続 ・安値更新 → 下降トレンドの継続 |
これが「トレンド転換シグナル(サイン)」の根底にある考え方になります。
つまり、高値更新、安値更新がある限り、その方向へのトレンドは「継続している」と見るのがダウ理論に沿ったトレンド判断の基本原則になっているという事です。
高値更新、安値更新の有無に基づくトレンドの転換シグナル
よって、ダウ理論に基づくトレンド判断においては「高値更新」「安値更新」が、言わば『トレンドの継続シグナル(サイン)』という見方になります。
投資の格言の1つに『落ちてくるナイフは掴むな』というものがあり、これは「安値更新し続ける株に手を出すな」という事を意味しています。
つまり、この格言は、まさに「ダウ理論」における「高値更新」「安値更新」を続ける相場に対して、いわゆる「逆張り」は危険ということを意味しているわけです。
基本的に、このような「投資の格言」にあたるものは、相場(投資)の原点である「株式投資(株を買う行為)」を対象としたものになっています。 この『落ちてくるナイフは掴むな(=安値更新を続ける株に手を出すな)』のように、株を買う場合の視点、または買ったものを売る場合の視点を前提とした格言が多いという事です。 |
その上で「高値更新」「安値更新」を『トレンドの継続シグナル(サイン)』としていく視点に対して『トレンドの転換シグナル(サイン)』は、それとは逆の視点で値動きを捉えます。
要するに「高値更新」「安値更新」が阻まれた状況を『トレンド転換のシグナル(サイン)』と判断するわけです。
以下に、このような原則に基づく形で、多くのトレーダーが実際に意識または実用している有名どころの「トレンド転換のシグナル(サイン)」を挙げていきます。
トレンド転換シグナル「ダブルトップ」「ダブルボトム」
これらは「ダブルトップ」「ダブルボトム」と呼ばれるトレンド転換シグナルで、高値更新、安値更新の『トレンド継続シグナル』に対して、その「更新」が阻まれる形で相場が反転した状況が該当します。
上記の図で言うと「安値2」「高値2」のポイントで相場が折り返せば、ひとまずは「ダブルトップ」「ダブルボトム」の形状(エントリーポイント1)となります。
ただ、そこから『高値間の安値』『安値間の高値』まで相場が進行した時点でシグナル確定(エントリーポイント2)と判断しているトレーダーも多いようです。
確率の上では「安値2」の『エントリーポイント1』の段階では、また更に相場がトレンドを継続して安値更新、高値更新となる事も多い傾向にあります。
そういった視点では「高値間の安値」「安値間の高値」を相場が抜けた時点の『エントリーポイント2』を狙う方が「勝率」は上がるという事です。
ですが『エントリーポイント2』のポイントから相場が逆方向に戻ってくる事も当然、ありえるため、必ずしも『エントリーポイント2』のポイントが安全というわけではありません。
仮に安値、高値更新のレートを『損切り』のレートとするなら、いわゆる「リスクリワード(リスクの範囲に対するリターンの大きさ)」は『エントリーポイント1』の方が明らかに好条件となるからです。
勝率を重視するのであれば『エントリーポイント2』のポイントからのトレードが有利ですが「リスクリワード」を重視するのであれば『エントリーポイント1』の方に優位性があるという事です。 |
以下、このシグナルが実際に適応となった相場のチャート事例です。
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ビットコインの2017年末頃の、この当時の最高値レートで綺麗なダブルトップが形成されている事が分かります。
今(2021年3月中旬)でこそ、ビットコインは600万円台を超えていますが、この2017年頃は200万円台を超えた時点で「仮想通貨バブル」「億り人」という言葉が飛び交っていました。
ですが、このダブルトップのシグナル以降、レートは急落して100万円台を割り込んでいく形となったため、あくまでも「結果論」ですが「これがトレンド転換のシグナルとなった可能性」は否定できません。
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ただ「ダブルトップ」「ダブルボトム」のような高値、安値の更新の有無を捉えるシグナルは、
・ローソク足のヒゲでシグナルを判断するのか ・ローソク足の実体でシグナルを判断するのか ・何時間、何分足のローソク足でシグナルを見るのか |
といった違いで、実際の「シグナル」やそれに伴う「判断」も変わってきます。
実際に上記のチャート事例でも、
このようにシビアに見ると、ローソク足の「実体」の判断ではダブルトップが成立していますが、ローソク足の「ヒゲ」の判断では、ギリギリのところで「ダブルトップ」は成立していません。
つまり「ローソク足のヒゲによるダブルトップを狙う」というシグナル(サイン)を対象にしているトレーダーであれば、売りポジションを建てられないまま、相場を見送っていた事になるわけです。
また、これは「1日足」のチャートとなっていますが、同じ相場でも「主軸としている時間足」が異なれば、当然、ローソク足の形状も変わります。
以下、上記と同じポイントを「4時間足」で見た場合のチャートです。
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こちらの通り「4時間足」でシグナル(サイン)を判断していた場合、
・ローソク足のヒゲによる判断であればダブルトップに届いていない ・ローソク足の実体による判断であれば高値更新の「継続シグナル」が出ている |
という事になるため、仮に4時間足を主体に「トレンドの継続」と判断していたトレーダーであれば、ここから買いポジションを建てていたかもしれません。
このような「高値」「安値」とその「更新の有無」を捉えるシグナルは、ローソク足のヒゲと実体、また、見ているチャートの時間足によって、その判断は全く違ったものになります。
故に、多くのトレーダーは、このようなシグナルのみで売り買いの判断を下すのではなく、
・複数の時間足のシグナルを踏まえて複合的な裁量判断で売り買いを決める ・他のテクニカル指標を交えた複合的な判断で売り買いを決める |
このような形で、独自にプラスαの判断基準を作っている場合がほとんどだと思います。
そのようなプラスαの判断基準の優位性が、実際のトレードにおける「勝ち負け」や「損益」を大きく左右していくという事です。
ちなみに私の場合は、このようなシグナルを強いて意識したトレードを行っているわけではなく、基本的には1つの指標を用いた形のトレンド判断やトレード判断を主軸としています。 ただ、その上でのトレンド判断、トレード判断の結果が、このようなシグナルに沿ってトレードになっているケースは珍しくありません。 私独自の1つの指標を用いたテクニカル判断が結果的に、ダウ理論における、このようなシグナルと一致する事も珍しくはないという事です。
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トレンド転換シグナル「高値切り下げサイン」「安値切り上げサイン」
こちらもダウ理論に基づくシグナルの1つですが、先立つ「ダブルトップ」「ダブルボトム」のような名称が(おそらく)あるわけではないため、ここで示したサインの名称は私が付けたものです。
先立つ「ダブルトップ」「ダブルボトム」との違いは、高値、安値を付けた後の押し目(下降、または上昇)があり、その次の高値が切り下げられたケース、安値が切り上げられたケースが該当します。
結果として、これも高値更新、安値更新が阻まれた状況とみなす事ができるため、代表的なトレンド転換のシステムの1つとして、多くのトレーダーが意識し、また、実用しています。
ただ、このシグナルはダブルトップ、ダブルボトムの『形成途中』という見方もできるため、高値、安値の切り上げた段階よりも、その後の高値、安値の更新段階が「シグナル」とされている傾向にあります。
また、このシグナルが確定した後、再び相場が「押し目」を作って戻ってくるポイントを狙ってポジションを建てているトレーダーも多いようです。 |
以下、このシグナルが実際に適応となった相場のチャート事例です。
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先立つ「ダブルトップ」の事例として挙げた相場の数日後となりますが、この時の相場では「ダブルトップ」の後に『高値切り下げサイン』のシグナルも追って確定している事がお分かり頂けるはずです。
先立って「ダブルトップ」のシグナルが出ていますので、この時の相場はトレンド転換の2つのサインが続けて発生した状況にあったという事です。
その後、実際に「トレンド」が転換してビットコインの相場は100万円台を割り込んで下がり続けた状況は先立つチャート事例で見せした通りです。 |
ただ、このようなシグナルが現れても、相場がそのシグナル通りには動かない事も当然ありえます。
その実例として、以下は同じくビットコインの2021年1月頃に形成された『高値切り下げサイン』のシグナルです。
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2021年にビットコインの過去の最高高値を付けた後、高値の切り下げがあり、その間の安値を更新する形となっていますので『高値切り下げサイン』は明確に出ています。
ですが、この後のビットコインの相場は、こちらの通り、更に高値を更新して「上昇トレンドが継続する形」となっていました。
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このようにトレンド転換のシグナルは絶対的なものではなく、あくまでも「傾向」の1つでしかないため、シグナルが現れたからと言って、必ずしもトレンドが転換する(転換している)とは限りません。
また、このサインも、シグナルを形成する1つ1つの「高値」「安値」の判断が人によって変わる余地があり、主軸とする時間足によっても、その「見え方」が変わってきます。
その時間足において、誰の目にも明白な高値、安値だけをシグナルの形成要因にするトレーダーもいれば、かなり際どい範囲の高値、安値もシグナルの形成要因とするトレーダーもいるという事です。
故に「ダブルトップ」「ダブルボトム」のシグナルと同様に、これらのシグナルに対してのプラスαの判断基準が実際の勝敗を分けていくという事です。 |
トレンド転換シグナル「上昇トレンド否定サイン」「下降トレンド否定サイン」
こちらも先立つ「ダブルトップ」「ダブルボトム」のような名称が(おそらく)あるわけではないため、ここで示したサインの名称は私が付けたものです。
このシグナルは、一定の波形(トレンド)を描く形で上昇、または下降してきた相場において、安値、または高値を付けた相場が、その波形(トレンド)を貫く形で反転したケースが対象となります。
継続してきた波形(トレンド)の「否定」が実質的なトレンドの継続を阻んだ形となるため、これをトレンドの転換サインと見るわけです。
ただ、このトレンド転換のシグナルは、
・トレンドラインを抜けた時点でシグナルは確定している ・1つ前の高値を更新しない限りはシグナルは確定していない |
この判断の違いから、先立つ波形(トレンドライン)を抜けた『エントリーポイント1』を狙うトレーダーと、1つ前の高値更新があった『エントリーポイント2』を狙うトレーダーに分かれる傾向にあります。
以下、このシグナルが実際に適応となった相場のチャート事例です。
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ご覧の通り、安値を付けた相場がそれまでの波形(トレンド)を抜け、直前の高値を更新した上で一気に上昇トレンドに切り替わっている傾向が伺えると思います。
少なくとも、この時の相場では「ダブルトップ」「ダブルボトム」が形成されていないため、これらのシグナルを待っていた場合は、この時の上昇トレンドに乗る事はできません。
また「下降トレンド否定サイン」の後、追って「安値切り上げサイン」も確定している状況となっていますが、その場合のシグナルのポイントは、すでにレートがかなり上昇した位置になってしまっています。
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よって、この時の相場は「下降トレンド否定サインに伴う判断がベストだった」という事になるわけです。
ただ、このシグナルにも、当然、ダマし(シグナル通りに動かない相場)があり、以下のような相場が、そのようなケースに該当します。
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安値を付けた相場がそれまでの波形(トレンド)を抜け、また、直前の高値も更新する形でシグナルが現れていますが、その後、相場は一時的に上昇傾向となった後、再び安値を更新する形となっています。
この時、仮に「ダブルボトム」や「安値切り上げサイン」の方だけを待っていれば、どちらのシグナルも現れていないため、単純にこの時の相場は「下降トレンドの継続」という判断になっていたはずです。
つまり、この「上昇トレンド否定サイン」「下降トレンド否定サイン」は、サインの特性上、トレンド転換の判断を早い段階で下せるメリットがある反面、ダマしに逢いやすいデメリットもあるという事です。
トレンド転換は「全体像」と「段階」を踏まえた「シグナル」で捉える
ここではダウ理論に基づく代表的なトレンド転換のシグナルのみを解説してきましたが、実質的に、これらのシグナルを実用していく際には『トレンドの全体像や段階の把握』が極めて重要になります。
何より、ダウ理論そのものが「日足チャート」のような、ある程度の長時間足を対象とした理論となっていた点からも、ここで解説したようなシグナルは全般的に、
・長時間足のチャートで実用するほど有効性が高い ・短時間足のチャートで実用するほどダマしが多くなる |
とされているものであり、これは事実として、そのような傾向にあります。
例えば以下は「5分足」のチャート上に見られたダブルトップのポイントに印をつけていったものですが、ことどとく、シグナルを無視する形で相場が高値更新を続けている事がお分かり頂けるはずです。
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つまり、このようなシグナルは、多くのFXトレーダーが主軸にしている1時間足、5分足といった短時間足のチャートで実用する場合は尚の事、トレンドの全体や段階を踏まえて利用する必要があるという事です。
ダウ理論における「トレンドの全体像」や「トレンドの段階」については別途、以下のようなブログ講座がありますので、こちらも併せて参考にしてください。
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また、このようなチャートの形状やローソク足によるトレンド転換のシグナルは、
・シグナルそのものがトレンド転換の引き金になっている ・トレンド転換が生じている相場において統計上、シグナルが発生しやすくなる |
このような2つの捉え方があり、これが「どちらなのか」は『卵と鶏のパラドックス(卵が先か、鶏が先か)』のように、厳密には分からない部分でもあります。
ただ、仮に前者の「シグナルそのものが引き金になっている」という前提が成り立つとしても、それが引き金になっていないケースもある以上、合理的な考え方はやはり、後者の「統計的な傾向」に他なりません。
とは言え、多くのトレーダーがこのようなシグナルを指針としている傾向上、シグナルが現れた事が偏った売買の引き金や追い風になっているケースが無いとは言い切れない側面もあります。
いずれにしても「これらのシグナルは決して確定的なものではない」という事です。
その上で、これらのシグナルはいずれも値動きに準じたローソク足の形状によって成立していくサインである以上は「偶然の結果」として値動きの推移がシグナルの形状を作り出してしまう事もありえます。
そのような場合に、
・シグナルそのものがトレンドの引き金にはならない場合もある ・シグナルが現れるのは、あくまでも統計上の傾向でしかない |
このような前提においては、当然、偶然の結果として確定しただけのシグナルに沿ったトレードには、ほぼ優位性が無い事になります。
まさに短時間足のチャートを主軸とする場合には、このような「偶然の結果として確定したサイン」が頻発する事になるため、これらのシグナルを短時間足で利用する場合ほど「ダマし」が多くなるわけです。
▼ トレンドに基づく値動きの動向を「99%の精度」で見極める。テクニカル分析やトレードの手法は、多種多様、色々なノウハウがありますが、少なくとも私が以下のツイッターを介して行っている「公開トレード」で、
このような「常勝」に近い勝率を実現できているのは、まさにトレンドの「始まり」と「終わり」を押さえて『まず負けようがないところだけを狙ってトレードを行っているから』に他なりません。 ↓↓↓ テクニカルトレードと統計心理学、管理人Yのトレード公開用ツイッター >Twitterによる公開トレードの勝率、パフォーマンス一覧 |
端的に言えば「ダウ理論」は相場の値動きにおける基本原則と、それを踏まえた規則的な「傾向」を提唱しているものに他なりません。
そして、実際にその1つ1つの理論が「有効なもの」とされているのは、実際に相場の値動きには、このダウ理論に基づくような規則的な傾向が顕著に見られるからです。
その上で、それぞれの理論に基づく実際の値動きやチャートパターンについては、その1つ1つの理論に応じた形で、それぞれ個別の講義にて解説していきます。
>ダウ理論基礎講習:テクニカル分析における6つの基本原則 >ダウ理論実践講習:主要トレンドに内在する二次トレンド・三次トレンドの攻略 |
上記の「ダウ理論実践講習」は、おそらく、どの投資関連の文献やサイトなどよりも有意義な「ダウ理論の実践的な講義」になっていると思いますので、これらの記事も併せて参考にしてください。
本講義の内容が、少しでも今後のあなたの資産運用のお力添えになれば幸いです。
最後までお付き合い頂き、ありがとうございました。