USDT(ドルテザー)はテザー・ホールディングス(Tether Holdings、以下テザー社)が発行している暗号通貨(仮想通貨)で『米ドル(USD)との等価レート(価値)を有する仮想通貨』とされています。

米ドルとの「等価交換」を原則とした上で、実際に『1USDT = 1USD』という相場が維持されているため「USDT」のドル建てのチャートは以下のような、ほぼ横一線のチャートになっています。

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USDT/USD取引レートの推移

市場で頻繁に取引が行われている以上、大量の売り買いが生じた場合などに一時的な上下(0.01ドルほど)が伴っている事もありますが、それ以上の大きなレート変動や継続的な変動は見受けられません。

テザー社によるUSDTの発行は2015年の2月頃からで、発行時点から現在まで、USDTは常に米ドルと等価交換の価値を維持し続ける事ができています。

そんなUSDT(ドルテザー)が何故、米ドルと等価交換のレート(1USDT = 1USD)を維持する事ができているのか。

また、今後においても、米ドルとの等価交換が維持されるのか、そこに確たる「保証」や「裏付け」などがあるのかどうか。

この記事では「USDT(ドルテザー)の仕組みやリスク」などを解説していきたいと思います。
 

USDT(ドルテザー)が米ドルとの等価交換レートを維持できる理由。

一般的に仮想通貨には「価値(レート)を裏付けるもの(価値を裏付けるファンダメンタルズ)」などは存在しません。

故に、ビットコインを始めとする多くの仮想通貨は、その取引レートが不安定であり、レートが大きく高騰する事もあれば、下落していく事もあります。

ですが「USDT(ドルテザー)」は、発行元であるテザー社が『1USDT = 1USD』の等価レートで交換(払い戻し)に応じる事を前提に発行されています。

発行元であるテザー社が「1USDに対して1USDTを発行し、1USDTに対して1USDの交換に応じる」という事を前提とした上で「USDT」を発行しているわけです。
 

日本国内で「USDT(ドルテザー)」を利用している人の大半は、仮想通貨の取引所を介して「USDT」を手にしていると思いますが「USDT」はテザー社の公式サイトを介して入手する事ができます。

基本的にUSDTは全て、大元のテザー社から発行されたもので、すでに発行済みUSDTが各仮想通貨の取引所に保有され、その利用者間の交換や取引などに利用されているという事です。

 
よって、テザー社は、USDTを発行する時点で『1USDT = 1USD』に相当する米ドルを受け取っているため、ある意味で、これは「USDT」と引き換えに顧客の米ドルを「預かっている状況」とも言えます。

その上で、テザー社は「等価の資産(米ドル)を保有する事で通貨(USDT)の価値を保全する」という仕組みを採用するとした上で、USDTのレートを米ドルと同レートに保持しています。

要するにテザー社は「常に発行したUSDTと同額の米ドルを保持している事」を前提とした上で、USDTとの交換(米ドルの払い戻し)を「履行」しているわけです。

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USDTのような「等価の資産を保有する事で通貨の価値を保全する」という仕組みは、為替政策における『カレンシーボード制』と呼ばれるもので「香港ドル」が同様の仕組みで発行されています。

また、USDTのように「米ドルと同等のレートを固定する」という仕組みは、為替政策では『ドルペッグ制』と呼ばれる「固定相場政策」に分類されます。

よってUSDTの仕組みは為替政策で言うなら『ドルペッグ制』(ドルとの等価レートを保持)と『カレンシーボード制(等価の米ドルを保有)』を採用する事で、その価値(レート)を維持しているという事です。

ただ『ドルペッグ制』を採用してきた法定通貨は、自国はもとより、他国を巻き込んだ通貨危機(レートの暴落)を引き起こしてきた歴史(アジア通貨危機など)があります。

そして、ドルペッグ制を採用した各国法定通貨「暴落」の歴史は、USDTにおいても例外とは言い切れない側面があるためUSDTを何らかの形で保有している場合は、以下の記事も併せてご覧になってみてください。

>通貨の歴史から読み解くテザー問題。ドルペッグ通貨の暴落要因

米ドルとのペッグ制による「安定したレート」が需要の根源。

仮想通貨(暗号通貨)は「通貨」のやりとりにおいて、銀行口座の開設などが不要なため、その利便性が1つの利用価値を生み出しています。

ただ、仮想通貨はまだまだ世間一般的な商取引には、そのまま利用できない場合が多いため「法定通貨への換金」が大前提となっているのが実情です。

ですが、ビットコインを始めとする多くの仮想通貨はあまりにもレートの変動が激しい事から、仮想通貨を保有し続ける事自体に「リスク」が伴います。

故に、純粋な「通貨」として仮想通貨を利用し、保持したいような人にとって、USDT(ドルテザー)のようにレートが安定している仮想通貨は、この上なく、そのニーズに見合っているわけです。

また、短期的、長期的な「レートの変動(上昇)」などを見越した『投機』を目的に仮想通貨を取引しているような人達からしても、USDTは「保有している仮想通貨の一時的な退避」などに使えます。

保持していた仮想通貨が何らかの要因で下落する可能性がある場合など、取引所によっては「法定通貨への換金」よりも「USDTへの換金」の方が、スピーディ且つ低コストに行える場合があるからです。

とくに海外の仮想通貨取引所では、法定通貨(日本円や米ドル)への交換や払い出しに応じていない取引所も多いため、USDTはそのような取引所で重宝されているようです。

そのようなニーズや用途から、米ドルとのペッグレートを実現しているUSDT(ドルテザー)は、今や700億ドル(約8兆円)を超える4番目の時価総額(2021年11月時点)を有した仮想通貨となっています。

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(引用元/coinmarketcap:https://coinmarketcap.com/ja/)

USDT(ドルテザー)のように「レートの安定」を前提に設計された仮想通貨は『ステープルコイン』と呼ばれているようで、現在はUSDT以外にも、幾つかのステーブルコインが発行されています。

その中でもUSDTは7割近くを占める時価総額となっている「最も多くのホルダー(利用者)を有するステープルコインでもある」という事です。

ただ、仮想通貨の時価総額は、発行枚数(総枚数)に現在レートを掛けた金額となるため「発行上限」が定められていないUSDTは、テザー社がUSDTを発行するほど時価総額も大きくなっていきます。

その結果、現時点でテザー社は、700億ドル、8兆円相当のUSDTを発行するに至っているという事です。

▼ テザー社によるUSDTの発行事業はどこで「利益」を得ているのか。

テザー社は、USDTの米ドルへの換金に「手数料(引き出し金額×0.1%※公式サイト参照)」を課しているため、表向きではテザー社の収入源は「換金時の手数料」という事になっています。

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(引用元:Tether Holdings公式サイト/https://tether.to/fees/)

ですが、USDTのホルダーが米ドルへの交換を請求する頻度は、その用途などを考慮する限り、そこまで多くはないと考えられます。

よって、テザー社には「米ドルへの交換手数料とは別の収入源がある」と考えるのが妥当であり、そこから浮上する事になるテザー社、USDTに対しての疑惑。

それが「テザー問題(テザー疑惑)」と呼ばれる、顧客資金(米ドル)の流用疑惑ですが、この疑惑については提訴、訴訟、判決までの一連の流れで一応の決着が付いた?という見方もあります。

ただ、その「結果」の捉え方は、必ずしもUSDTの今後を楽観視できるものではないため、この「テザー問題(テザー疑惑)」の一連の詳細については以下の記事を併せて参考にしてください。

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テザー問題、BITFINEXへのUSDT準備資金流用疑惑とその顛末。

USDT(ドルテザー)におけるカウンターパーティリスク。

USTDが米ドルと等価レートを維持できる理由、仕組みは既に解説した通りですが、この仕組みは実質的に、その発行元であるテザー社の「信用」に依存したものと言えます。

少なくとも、実際にUSDTを保有している人の多くは、USDTの仕組みがどういうものかを認識していない人以外は、テザー社がUSDTの時価総額と同等の米ドルを保持している事を「信用」しています。

つまり、USDTの価値(レート)は、その「信頼(信用)」によって成り立っているという事です。

よって、何らかの理由で、その「信用」が揺らぐような状況となった場合、USDTは、その価値(レート)を維持できなくなるカウンターパーティリスク(発行元に依存した信用リスク)があります。

また、テザー社の方も『USDTが米ドルと等価価値を維持される事』や『米ドルとの等価交換に応じる事』の「保証」は、公式サイト内の「免責事項」で明確に避けています。

No Representations & Warranties by Tether: Tether makes no representations, warranties, or guarantees to you of any kind.

(翻訳)テザーによる表明および保証の禁止:テザーは、いかなる種類の表明、保証、も行いません。

(引用元:Tether Limited社公式サイト/https://tether.to/legal/)

本来、顧客から資金を「預かる事」を生業としている銀行などは、顧客から受け入れている預金の一定比率を「準備金」として中央銀行などの預ける『準備預金制度』のもとで運営されています。

それに伴い、顧客から受け入れた資金に対する準備金の算出などを含めて、その財務状況などの「透明性」が追従されるようになっているわけです。

ですがテザー社はタックスヘイブン(租税回避地)のイギリス領ヴァージン諸島で設立されている法人であり、米国において銀行業を営む認可を得ているわけでもありません。

そのため、米国における準備金制度などの対象にもならない事から、実質的に顧客から払い込まれた米ドルを含め、その資産状況、準備金の所在などが不透明な形になっています。

故に、本当に発行したUSDTと同額のUSD(米ドル)を保有しているのか、そして、その多額の資金をどのような形で保有しているのか。

その「真偽」や「透明性」に対して『拭いきれない疑惑がある』という事です。

私自身、本年(2021年)の10月あたりまでは、ある程度の「楽観視」を自覚した上で、USDTを一定数量、保有していましたが、現在は保有していた全てのUSDTをBTCに交換しています。

ニューヨーク州司法当局の提訴から始まった「テザー疑惑」の一連の流れ、それと共に一部公表されたテザー社の資産状況。

米ドルとの等価レートを、より透明性の高い形で裏付けている「USD Coin(USDC)」が時価総額を伸ばしている点など「USDTを楽観視できない懸念材料が揃い過ぎた」というのが私の率直な印象です。

USD Coin(USDC)はUSDTと同じステーブルコインの1つですが、その急成長は、USDTへの不信に伴い、既存のUSDTホルダーが「乗り換え」を行っている傾向にあると考えられます。

>USDT(テザー)とUSDCの違いと比較、テザー衰退の予兆。

よってUSDTは、その「暴落」を狙って、ほぼノーリスクでありながらハイリターンな「空売り」を行える状況にあるため、今後はヘッジファンドなどの格好の標的となる可能性もあります。

この事は、bitFlyerの代表取締役である加納裕三氏も指摘していたため、USDTを保有している状況にあるようなら、こちらの記事にも是非、目を通しておいてください。

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bitFlyer加納裕三氏によるテザー暴落を狙った空売り投機予見

私がビットコインのFX(証拠金取引)で実際に利用している海外取引所「bybit」は、BTCを原資とする取引(インバース無期限)と、USDTを原資とする取引(USDT無期限)を選択の上、利用できるようになっています。

一時は「USDT無期限契約」で取引をしていましたが、今はBTCによる「インバース無期限契約」に切り替えているという事です。

>bybit、USDT無期限とインバース無期限契約の違いと比較

以上、テザー社が発行するステープルコイン「USDT(ドルテザー)」について、その仕組みとリスクなどについて解説させて頂きました。

ブログ内には今回のテーマに関連する講義も他に幾つかございますので、併せて参考にしてください。
 

>テザー社によるビットフィネックスへのUSDT準備資金流用疑惑の顛末

>USDT(テザー)とUSDCの違いと比較、テザー衰退の予兆。

>bitFlyer加納裕三氏による「テザー暴落」を狙った空売り投機の予見

>通貨の歴史から読み解くテザー問題。ドルペッグ通貨の暴落要因

>bybit、USDT無期限とインバース無期限契約の違いと比較
 

本講義の内容が、少しでも今後のあなたの資産運用のお力添えになれば幸いです。

最後までお付き合い頂き、ありがとうございました。