国内では大手の仮想通貨取引所である「bitFlyer」の代表取締役である加納裕三氏がご自身のブログで、ステーブルコインの代表格「USDT(テザー)」について、このような事を発言していました。
多くの人が1USDT=1USDと考えていますが、そうではありません。金利は享受できずテザー社の倒産リスクがあり、そして価格に上方硬直性があるのです。 私は投資銀行のトレーダーでしたが、USDTが空売りできるのであれば、空売りしていると思います。負けなしのポジションです。 |
(引用元:https://blog.blockchain.bitflyer.com/n/nbc3c9659e198)
ステーブルコインは価値(レート)が安定するように設計された仮想通貨で、USDTは発行元であるテザー・ホールディングスが米ドルとの等価交換(1USD = 1USDT)に応じる事で、その価値(レート)を維持しています。
加納裕三氏は、そんなUSDTを「空売り」する事で『負けなしのポジションを持てる』という事を言っているのですが、これは「USDTは(必ず)暴落する」といった事を言っているわけではありません。
では、加納裕三氏の言う「負けなしのポジション」とはどういう事なのか、そのロジックを詳しく解説してみたいと思います。
USDT(ドルテザー)が米ドルと等価の価値を維持している仕組みやそのリスクなどについては、以下の記事で別途、詳しく解説していますので併せて参考にしてください。
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bitFlyer加納裕三氏による「テザー暴落」を狙った空売り投機の予見。
bitFlyerの加納裕三氏の言う「負けなしのポジション」というのは『まず損をする事が無いポジション』という意味であって、必ず勝てるポジションというわけではありません。
その上で、ここで言う「負けなしのポジション(まず損をする事が無いポジション)」は『米ドル建て(USD建て)のポジション』である必要があります。
要するに米ドル(USD)を原資(資金)とする形で『USDT/USD』で空売り(ショートポジション建て)を行えば、実質的に「リスク(負け)の無いポジション」になるわけです。
USDTは米ドル(USD)とのペッグレート(等価レート)を維持するわけですから、米ドル建てのUSDTの「売りポジション」に対して、損失(含み損)が生じるリスクは理論上、ありえません。
現に「USDT」のドル建てのチャートは以下のような、ほぼ横一線のチャートになっています。
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市場で頻繁に取引が行われている以上、大量の売り買いが生じた場合などに一時的な上下(0.01ドルほど)が伴っている事もありますが、それ以上の大きなレート変動や継続的な変動は見受けられません。
つまり、理論上は何億ドル、何十億ドル分の「空売り」を行っても、その投機においては、ほぼリスク(損失)が伴わないという事です。
米ドルとのペッグ通貨は「米ドル建ての空売り」にリスクが伴わない。
USDTのように、米ドルとの等価レートを前提としているペッグ通貨は全般的に「米ドル建ての空売り」においては、理論上、リスクが伴いません。
ただ、もしもその通貨が「米ドルとのペッグレートを維持できなくなる(切り下げられる可能性がある)」としたなら、その「空売りポジション」は、十分な「リターン」を期待できる事になります。
USDTが何らかの理由で米ドルとの等価レートを維持できなくなり、その価値(レート)が切り下げられた場合、レートが下がった分だけ利益を得る事ができるわけです。
それこそUSDTは『1USDT=1USD』を維持し、その価値を安定させられている事がアドバンテージであり、その安定性を背景に700億ドル(約8兆円)を超える時価総額(2021年11月時点)となっています。
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ですが、仮にその価値(レート)を「維持できない」となれば、今や、USDTに代わるUSDcoin(USDC)などの米ドルとのペッグ通貨も存在するため、その「大暴落」は免れません。
USDTは、それが「現実」となる可能性も十分にありえる、それだけの不安材料、懸念材料を抱えているのが実情のため「その可能性に賭けるだけの価値は十分にある」というわけです。
テザー社は、同社の実質的経営者が運営(経営)する別法人に資金(USDTの準備金)を流用したとして米国ニューヨーク州の司法当局に提訴されています。 俗にいう「テザー問題(テザー疑惑)」であり、このUSDT準備資金の流用疑惑については以下の記事で詳しく解説していますので、併せて参考にしてください。 ↓↓↓
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USDTがヘッジファンド、投機機関家の「標的」となる可能性。
このような米ドルとのペッグ通貨への「空売り」のロジックは、法定通貨における為替市場で実際に行われた事があるスキームで、具体例を挙げればタイ国の『バーツ』などが、このスキームで大暴落。
当時、米ドルとのペッグ制(固定相場制)を採用していたタイバーツは、ヘッジファンドなどの機関投資家による大量の「空売り」を受けた事で、通貨レートの切り下げに至っています。
この時、実際に空売りを仕掛けたヘッジファンドなどは「米ドル建てによる空売り」を仕掛けていたため、仮にタイバーツの売り崩しに「失敗」したとしても、米ドルとのベッグレートが維持されるだけの結果となります。
つまり、タイバーツを売り崩す事ができれば巨額の利益を得られる一方で、仮に売り崩す事が出来なくてもリスク(損失)が伴わない構図になっていたという事です。
そこに「リスク」が伴わないなら、投機(空売り)を仕掛ける側は、用立てる事ができる資金をどんどん投入できてしまうため、彼等にとってみれば、これほど「おいしい仕事」はありません。
そして、これと同じ図式による「売り仕掛け」が、現状のUSDTに対しては、「いつ巻き起こってもおかしくはない状況にある」と言えます。
まさにbitFlyerの加納裕三氏が『USDTが空売りできるのであれば、空売りしている』と主張している通り、大手の投機機関家などが、その「タイミング」を虎視眈々と狙っている可能性があるという事です。
▼ 投機機関家が「タイバーツの空売り」を狙ったタイミングとその理由ちなみにタイバーツの暴落は「アジア通貨危機」と呼ばれるアジア各国の急激な通貨下落(減価)現象の引き金となったと言われています。
ただ、タイバーツを皮切りとしたアジア通貨危機において、ドルペッグ制を採用しながらも、その危機を回避したのが「香港(香港ドル)」で、香港は発行した香港ドルと同額の米ドルを保有する政策(カレンシーボード制)を採用していました。 |
私自身、本年(2021年)の10月あたりまでは、ある程度の「楽観視」を自覚した上で、USDTを一定数量、保有していましたが、現在は「これ以上の楽観視は危険」と判断した上で、保有していたUSDTは全てBTCに交換しました。 ニューヨーク州司法当局の提訴から始まった「テザー疑惑」の一連の流れ、それと共に一部公表されたテザー社の資産状況。 米ドルとの等価レートを、より透明性の高い形で裏付けている「USD Coin(USDC)」が時価総額を伸ばしている点など「USDTを楽観視できない懸念材料が揃い過ぎた」というのが私の率直な印象です。
その上で、私がビットコインのFX(証拠金取引)で実際に利用している海外取引所「bybit」は、BTCを原資とする取引(インバース無期限)と、USDTを原資とする取引(USDT無期限)を選択の上、利用できるようになっています。 ↓↓↓ 一時は私も「USDT無期限契約」の方で取引をしていましたが、今はUSDTの保有を避けてBTCによる「インバース無期限契約」に切り替えているという事です。 |
以上、本記事ではbitFlyer代表取締役、加納裕三氏による「USDTの空売りで負けなしのポジションを建てられる」という主張を踏まえて、その詳細や、幾つかの補足などを加えさせて頂きました。
ブログ内には今回のテーマに関連する講義も他に幾つかございますので、併せて参考にしてください。
>USDT(ドルテザー)の仕組み、ステーブルコインのリスクとは
>テザー社によるビットフィネックスへのUSDT準備資金流用疑惑の顛末
>USDT(テザー)とUSDCの違いと比較、テザー衰退の予兆。
>通貨の歴史から読み解くテザー問題。ドルペッグ通貨の暴落要因
>bybit、USDT無期限とインバース無期限契約の違いと比較
本講義の内容が、少しでも今後のあなたの資産運用のお力添えになれば幸いです。
最後までお付き合い頂き、ありがとうございました。